この写真を撮った日、父が住んでいた家の片付けが終わった。
遺された3人(+父の友人1人)で、生活していた痕跡を失くす作業。
懐かしい写真や物たちを涙ひとつ溢すことなく、燃えるゴミに変えていく。
父が生きていた場所。
実家を出て3年が経ってから、父が暮らしいた場所に初めて赴いたのは、今年の6月。
奇しくも、自分の誕生月。
悲しみも、喪失感も、虚しさも、全てそこにあった。
消化しきれぬ思いは、父から譲り受けたカメラに込めて、せめてもの気持ちで、皆既月食翌日の満月に近しい月を撮った。
あまりに美しく映った月は、きっと涙の形。
愛する父は、もういない。
両手にずしりと重みを感じる、最期の仕事道具だった望遠レンズをしっかりと握り、映し出す景色。
これから、私は何を撮るのだろう。
このレンズは、何を映してくれるのだろう。
期待に胸が膨らむ、なんてことはないけれど、これからは私のモノ。